中国進出 成功企業レポート

コロナの中でのマネジメント

エステ・ブライダル:コロナの中でのマネジメント
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エステ・ブライダル:コロナの中でのマネジメント

【コロナ禍でも活路を見出していた中国企業】

 新型コロナウイルスに、ビジネスはどう対応すべきなのか。

 他国より先行して経済活動を再開した中国では、「外出制限期間中に何をしていたか」で、各種業界内での明暗を分けている。

 大成功しているのは、SNSでのネットショッピングやコンテンツ販売など、オンライン対応を拡充させた企業だ。人気KOL※はもちろん、自社のCEOまでライブ配信で登場させ、コロナ前よりも売上を伸ばした企業さえある。

※KOL=Key Opinion Leader(キーオピニオンリーダー)。SNSなどで多数のフォロワーを持ち、発信内容が大きな影響を与える人。歌手や俳優よりも多くのフォロワーを持つKOLも中国全土に多数いて、消費者のネットショッピングに大きな影響を与える。お薦めの化粧品やアクセサリー、食べ物などをライブ配信などで紹介する。フォロワーからのチャットに応じて率直なコメントをすることが多い。

 

 一方、エステサロンのようにオンラインでのビジネスが困難な業態でも、明暗が分かれつつある。外出期間中で客が来なくとも、「今できることをやろう」と従業員達と知恵を絞り、工夫や改善に取り組んでいた企業は、スムーズな業務再開で客足も顧客満足も速やかに回復している。

【率直な情報開示で危機感共有】

 

 エステサロンの「ラ・パルレ」上海店は、2009年から営業開始。2017年からはブライダルジュエリー販売の「ダイヤモンドシライシ」を併設した路面店をオープンし、堅調に上海女性たちの支持を得てきた。

 2020年には、お客様の利便性を高めるために市内中心地の久光百貨店内へ併設店のまま移転した。

 運悪く開店直後のタイミングで武漢から新型コロナウイルス感染が始まり、すぐに上海市でも外出制限、外出制限となった。

 外出制限期間中の初期は久光百貨店も営業していたため、店舗も営業は継続。しかし、お客様はほとんど来ない。

 そのような期間をどう過ごし、どう乗り切ったのか。

 二度目の赴任直後にこの事態に直面した、上海东美美容有限公司の藤永店長に話を伺った(聞き手は弊社董事長の河野)。

【人生初の外出制限】

-復帰早々に新型コロナウイルス関連で、大変でしたね-

 

 正直、本当に大変でした。

 私にとって二度目の駐在とはいえ、上海は町並みや交通網、法律さえ一部変わっていたりして、とまどうことばかり。

 お店の引っ越しを進めながら上海に慣れてきた頃、新型コロナウイルスが徐々に広がり始め、街からは人が消え、とうとう外出制限令がでました。

 私の人生では経験が無かった、国が外出を厳しく制限するという日々。制限の内容や久光の営業時間、従業員の感染に対する不安など、あらゆることが日々変わる中で仕事をしなければなりませんでした。

 不安いっぱいの毎日だったのですが、スタッフをはじめ、日本本社や台湾法人、A&Cさん他、多くの方の支援をいただけたので、なんとか乗り切れたのだと思います。

【中国人スタッフと日々情報共有】

-スタッフとの信頼関係ができる前に、コロナが広がってしまった-

 

 前回赴任時から旧知の中国人スタッフは、1名だけ。

 他中国人スタッフたちとは、ゼロからの関係構築でした。

 彼女たちから見れば、私のことを信頼できる店長か判りませんよね。会って数ヶ月、引っ越し準備中心だったので、接客や施術技術さえも見せる機会がありませんでした。つまり、判断材料さえ無い状態です。

 そんな中で、彼女たちにとっても「新型コロナウイルスが広がる」という未経験で不安な日々が始まりました。

 通勤中の感染は怖いが、出勤しなければ給料はもらえなくなってしまう。倒産や解雇のニュースも目に入る。誰だって不安になりますよね。

 そこでまず、不安を払拭し、前向きに考えてもらえるよう、チャットや面談で一人ずつ粘り強く話しました。カタコトの中国語ではありましたが、時に通訳できるスタッフも交えながら、とにかく話しました。

 店の売上、本社や久光百貨店の意向、私の考えや不安などを、全て正直に、正確に話して分かち合いました。

 また、言葉だけでは無く態度でも示そうと思い、私自身もできるだけ出社しました。

 悩みましたが、日本にも帰国しませんでした。中国人スタッフたちは、子供がいるのだから帰国するようにと強く勧めてくれたのですが、当時安全だと思われた日本に自分だけ避難するような気がして、どうしてもできませんでした。

 その後まもなく日本でも感染が広がり、日中間の渡航が制限されたので、結果的にも帰国しなくてよかったと思ってます。子供もみんなにかわいがってもらったおかげか、とても明るく元気です。いつのまにか、簡単な中国語で中国人スタッフ達とコミュニケーションをとれるようにもなってくれました。

【今できることをやろう】

-外出制限の期間中、どのようなマネジメントをされてましたか-

 

 「今やれることをやろう」と、スタッフのみんなと毎日考えました。

 

 外出制限がありますから、お客様はほとんどいらっしゃいません。私達の店舗は久光百貨店の二階通路の奥にあるので、入口近くまで通路が見渡せますが、やはりどこにもお客様はいませんでした。人がいない百貨店は違和感ありましたよ(笑)。

 

 とはいえ、久光の営業時間中は、スタッフが常駐しなければなりません。少なくともラ・パルレは1名、高額なジュエリーを展示しているダイヤモンドシライシは2名が必要でした。

 接客業や小売業の経営は「お客様がいない時の過ごし方で決まる」と聞いたことがあります。

 つまり、お客様がいない時の準備が大事ということです。「お客様に来ていただいてから、慌てて対応したり、売り込みの努力をするものではない」という意味だと思います。

 そこで、スタッフたちと何度も話し合い、「お客様がいない今だからこそやれること」を一緒に考えました。

 

 ダイヤモンドシライシのスタッフ達は、「お客様が快適にジュエリーを選べる接客の仕方」を考え続けてくれました。

 「お客様が自由にジュエリーをご覧頂く動線の確保」「自由にご覧頂く時間を長めにとった後でのお声がけの言葉」「判りやすい商品ご説明の内容」「最適なお勧めのための十分なヒアリング項目」「実物を手にとっていただくタイミング」などを、議論を繰り返し考えました。

 考えた内容は、実際に店頭でロールプレイングをして確かめました。お客様がいない時だからこそ、十分に時間をかけてできました。店頭でお客様目線に実際に立ってみると、多くの気づきが得られました。

 本当に良かったと思います。

 この時に決めた内容のおかげか、外出制限解除となった今、お客様の満足度や成約率は良くなっています。

【やることが判れば努力してくれる】

 ラ・パルレのスタッフ達とは、「全スタッフの施術レベルをさらに高める」ことに取り組みました。

 上海の全スタッフは、上海店としてエステティックの施術に関する研修を受け、基準に合格してはいます。

 ただ、エステティシャンの施術というものは完成形があるものではありません。永遠に絶え間ない努力で技術を高める努力が必要です。

 そこでこの期間中、これまで使用していたマニュアルをさらに進化させた「中国語版の教育マニュアルとチェックリスト」を整備しました。

 従来は、日本のマニュアルからお客様への施術を中心として抜粋した内容だったのですが、さらに、背景となる美容理論やお客様への助言の仕方、自己管理などを含めた全122項目を、全て上海用にアレンジした上で中国語にしました。

 そして、勉強会をし、技術チェックして合否判定し、結果を個人別ファイルに記録するようにしました。

 エステティシャンとしてやるべきことと評価項目が詳細に可視化されたことは、中国人スタッフ達の動機づけにもなったようです。やる気ある新人スタッフは特に熱心に学び、ベテランより先に合格してくれたんですよ。嬉しいですよね。

【外出禁止解除になった時、お客様の期待は大きいはず】

-売上確保より顧客満足追求に取り組んだのですね-

 

 ラ・パルレもダイヤモンドシライシも、以前から日本本社から「お客様の満足を最優先」にするよう指示を受けています。

 私は「売ることを優先するな」という意味だと解釈しています。

 売上は重要であるものの、それよりも重要なのは、お客様にとって本当に最適なものをご提案し、満足いただけるように提供することであり、私達の売りたい商品を売るのではないという意味です。

 この指示の背景には、中国視察に来た本社関係者が、中国系エステサロンや小売店で一方的に売り込みを受けた体験があるからだと思います。商品知識を一方的に話したり、「上から目線」のような態度をする販売員を同業他社で見たせいかもしれません。私達はそうならないようにと、今でも厳しく言われてます。

 スタッフの評価制度も、販売実績によるインセンティブ比率は同業他社よりも低く、固定給は高いと思います。 インセンティブ比率を高くした方がもっと売れるというスタッフもいますが、私達としては短期的な売上よりもお客様の満足度を優先し続けたほうが、結果的に良いと信じてます。

 特に今回、お客様は自宅でずっと外出を我慢され、ストレスも溜まっていたと思います。

 やっと外出できるようになった時には、エステやジュエリーには高い期待をかけていただいているはずです。

 そんな時にこそ、特に最高の体験をしていただく準備をしておきたいと思いました。 実際、外出制限解除後に来店されたお客様には、一度目の来店で成約されず、他店をいくつか回られた後に「他店の強く売り込む接客が嫌になった」と戻ってきて成約いただくお客様が増えています。

 ラ・パルレもダイヤモンドシライシでも同じで、スタッフたちにとって嬉しいひとときです。

【団結は強くなった】

-アフターコロナの上海をどのように考えていますか-

 

 上海市政府も補助金を出した「五五購物節(55ショッピング・フェスティバル)※」のおかげか、久光百貨店にはお客様が戻ってきています。
 来店頂くお客様は、ラ・パルレもダイヤモンドシライシも徐々に増えてきました。
私達が接客をさせて頂く中では、お客様の価値観や私達へ期待されることは変わったような印象はありません。今後、長期的には何か変わっていくのかもしれませんが、「良い製品やサービスを求める」という本質は普遍的なのではないかと思ってます。
あ、一緒にコロナという困難を克服したスタッフ達の団結が強くなった分、仕事はしやすくなりましたね。
※「五五購物節(55ショッピング・フェスティバル)」=上海市政府が主催するコロナ後の経済活動促進イベント。オンラインとオフライン問わず中国の主要ECサイトや商業施設が参加して成果を上げた。

【駐在員は自分なりの強みを】

-最後に、他日系企業にアドバイスをお願いします-

 

 日本人駐在員の方は、何か自分なりの強み、中国人が真似できない何かを持つと良いのではないかと思います。そのようなものあれば、コロナのような未経験の事態でも、自分なりの判断をして、中国人社員の信頼を得られる様になると思います。

 実は一回目の赴任の際、中国人スタッフ達から「中国ではこうなんです。日本とは違います。」と言われて言い返せないことが何度かありました。言い返せないので、強気な態度をとってみたこともありますが説得力無かったと思います。中国人はそんなパフォーマンスをすぐに見抜きますし。

 その反省があったので、日本に戻っていた時には施術技術を磨き、できるだけ多くいろんな場面でのマネジメント経験も積ませてもらいました。自分なりに経営の本質的なことも考えられるようになったと思います。

 上海店で中国人スタッフたちに施術技術を見せると、「自分もできるようになりたい。教えてもらいたい」と思ってくれました。

 マネジメント経験は、今回、多くの判断の場で活かされたと思います。

 私なりに経営を本質的に考えることは、スタッフ達に言い負かされない強さになったと思います(笑)。

 このような努力して得た自分なりの強みというのは、自分の心の支えになると思います。コロナがある不安な日々でも、「きっとなんとかなる、乗り切れる」と思えました。

 毎日、精一杯頑張っていますので、一度店舗に見に来ていただけると嬉しいです。

 

-貴重なお話、ありがとうございました。-

【ありのままを語り、共に考える】

 ラ・パルレの日本法人では、全25店舗の全エステティシャン200名以上を対象とした技術コンテストがある。

 藤永店長は、最初の帰任後に「ボディ部門1位・総合成績2位」を獲得されていた。上海駐在に加え、産休後のブランクがあったことも考えると、並々ならぬ努力をされたのであろう。

 その努力が二度目の駐在で活きている。コロナと戦う武器になっている。

 

 また、自ら積極的に取り組んだマネジメント経験が、責任者としてのスキルをも高めた。

企業の困難や危機に対するビジネス書「HARD THINGS 答えがない難問と困難に、君はどう立ち向かうか※」では、会社が直面する危機的状況は、社員たちへ「ありのままを語るべき」とある。

 理由を要約すると以下3つになる。

 1)ありのままに伝えることが信頼関係の構築になる

 2)責任者が一人よりも、事実を把握した社員たちと考えたほうが良い解決策が出せる

 3)社内で悪い情報は早く伝わり、良い情報は遅く伝わる

 

 責任者は、対策を思いつけないほど状況が悪い時、楽観的に社員へ話をしてしまうことがある。ポジティブなことを強調し、ネガティブなことを軽視する話し方で。「大丈夫だ」「会社を信じて欲しい」「私がなんとかするから」と。

 しかし日々最前線に立っている社員は、正確で最新の情報に触れている。社員同士での情報交流も早い。責任者に情報が届くよりも、はるかに早く、より多くの情報を交流している社員たちに、根拠がない楽観的な話をしてみても、「この責任者は信用できない」としか思われない。

 だから「ありのままを語るべき」である。 

  悪い状況を正確に共有し、具体的でポジティブな言動で導くのだ。

まさに、藤永店長の「全て正直に、正確に話して分かち合いました」「今できることをやろうと取り組んだ」ということであろう。

 

 アフターコロナ、WITHコロナの世界は、どんなベテラン経営者でも初体験である。

 社員たちとありのままの情報を共有しながら、共に考え、切り開いていくのが最善ではないかと思う。

 

※「HARD THINGS 答えがない難問と困難に、君はどう立ち向かうか」ベン・ホロウィッツ著 日経BP。ハーバード・ビジネス・レビュー読者が選ぶ ベスト経営書2015で第1位受賞。

取材協力:

上海东美美容有限公司 

新魅(上海)珠宝有限公司 http://diamond-shiraishi.cn/

聞き手:上海埃和希企业管理咨询有限公司 河野隆

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